第四章「渦巻く風の追憶」


 それから、ボクは無機質な夜の街をただ彷徨っていた。こんな事をしていた
って、何も変わるわけでは無い事は分かってる。けれど、こうして流れる人と
灯の狭間を歩いている限り、誰もボクのことを気に掛ける事は無い、声を掛け
られる事も無い。何よりも、今のボクには1人になれる時間が必要だった。
 いつかは家に帰らないといけないのに、心の壁が周囲を無限に張り巡らせて
出口の無い迷宮を造り出している。あの時、流香さんに突きつけられた真実は、
ボクにとってあまりにも重い枷だった。


『どんなに歩ちゃんが忘れようとしたって、想いは止められるものではないの』


 流香さんの震える声を前に、ボクは一言も返す事が出来なかった。胸の底で
熱い物が震えたかと思うと、高鳴ってゆく鼓動を自分でも抑えられなくなった。
これだけは、どんなに辛くたって受け入れなければいけない――認めなくては、
いけないんだ。


 きっと、ボクは・・・お兄ちゃんの事が・・・・・・・、好きなんだ・・・


 お兄ちゃんの妹としてではなく、ずっと傍から見続けていた1人の女の子と
して。いつも自分の事を「ボク」だなんて言って飛び回っていたのに――心を
寄せるつもりなんて全然無かったのに・・・いつの間にか、気付かないうちに
想ってしまっていた。

 でも、流香さんはボクにどうして欲しかったのだろう。ボクは、流香さんや
優季さんとは立場が違いすぎるんだ。お兄ちゃんに想いを打ち明ける事は勿論、
心の中を知られる事さえも、絶対に許されないんだ。それに、優季さんや流香
さんの気持ちを裏切ることもボクには出来ない。想いは、既に行き場を失って
いるんだ。
 これから、ボクがどうなってしまうのか、一体どうしたらいいのか、それは
ボクにも全然わからない。でも、ひとつだけ、はっきりとしている事がある。
――ボクがもう、昨日のボクには戻れないという事。お兄ちゃんの前にいても、
ボクの気持ちを素直に伝える事は、二度と出来なくなってしまったんだ。


 身体が重くて、こうして歩いている事も辛くなってきた。流香さんの前では
強がっていたけれど、あの時だって、本当はとても疲れていたんだ。ボクは、
めっきり人気の少なくなった公園を見つけて、そっと腰を下ろした。
 外灯の青い光の下、冷え切った身体を夜風に晒す。冷たく、虚しいだけの刻。
それでも、今のボクの心には、似合っているような気がした。
「ボク・・・、このままいなくなってしまえばいいのかな・・・」
 藍色の夜空に吸い込まれた声。恐ろしいくらいに冷たいのに、不思議と拒む
気はしなかった。
 そうすれば、ボクの想いは誰も傷つける事は無い。みんなは悲しむかもしれ
ないけれど、きっといつかは忘れてくれる――そう思った時、急に胸が溢れる
ような感覚が襲ってきた。傍らにあった水道で顔を洗ってみて、今更のように
ボクは自分が泣いていた事に気付いた。

 手を拭こうとしてポケットに手を入れると、指先の方に何か違和感を感じる。
「・・・?」
 気になってよく探ってみると、ポケットの奥底に小さく折り込まれた紙片が
入りこんでいた。家を出た時には、こんなものを入れた覚えなんて無かったし、
こんな物をボクのポケットにこっそり入れるが出来たのは、ボクの知る限りは
1人しかいない。それでも開いたのは、きっと心のどこかでみんなの声を聴き
たかったからだと思う。


---
『紗織お姉さんのひとことアドバイス』
 これを見つけるなんて、歩もなかなか鋭いじゃない。ごほうびに、お姉さん
からのとっておきメッセージを伝えるよ。
 歩は、自分でも気付いていない力と強さを持っている。けれど、どうしても
挫けそうになった時には自分を信じる事が一番大事なんだよ。
 どんなに辛い時の中でも、歩には未来がある。だから、まずは自分の選択を
正しいと信じて、とにかく、全力で目の前の道を走り続けること。毎朝学校へ
ダッシュしている時みたいに、きっと、何とかなるはずだよ。

それじゃあ、転ばない程度にがんばってね〜♪
---

「勝手なこと言わないでよ!!」

 次の瞬間、握り潰して地面に叩きつけていた。勝手にボクの事を分かってい
るつもりになっている紗織が、どんなに辛い状況でも笑顔と冗談で切り通して
しまうことができる紗織が、今は何もかもが腹立たしかった。だけど、茶色く
薄汚れた紙屑が風に転がって行った時には、『これで本当に全てが切り離され
たんだ』って、思った。

 そして、ボクは行く事にした。誰も傷つけることの無い、想いが本当に途切
れる場所を目指して。

『駄目だよ・・・』

 もう、会ってはいけないんだ。

『ボクはキミがいなかったら、駄目なんだよ・・・』

 本当は、声を聴きたい。
 いつもみたいに、ボクの前で怒ったり、笑ったり、拗ねてみたりして欲しい。

『だから、ボクは風の届く限り・・・』

 ただ、傍にいてくれるだけで、ボクを幸せにしてくれる人・・・


「どうして・・・どうして、ボクは離れられないの? 想いを消すことすら、
ボクにはできないって言うの!? ボクがこうなってしまったのだって・・・
それだって、全部キミのせいなのに、どうしてこんなにボクを苦しめるの!!」

 どんなに夜の闇が深くなっても、ボクはこの街を離れることが出来なかった。
そうしようとしても、今までと比べ物にならないくらいの悲しみが溢れ出して
きて、熱い悲しみで今にも胸が張り裂けそうになってしまう。束の間の眠りに
就く街の余韻の中、それでもボクは疼く心を引き摺って、いつまでも夜の道を
歩き続けた。

「どうして・・・何故なの・・・・・・誰か・・・・・・教えてよ・・・・!」
 宛ての無い疑問を、いつまでも繰り返しながら。

 そして、幾度目かの同じ景色を目の当たりにした時、ちょうど、何かが足に
ぶつかって止まったのを感じた。何の気もなしに目を落とすと―――それは、
所々にシワが入って、茶色く汚れた紗織の言葉だった。紗織の声は、こんなに
なっても笑顔でボクに語り続けていた。それを知った時、ボクは紗織の言葉だ
けではなく、気持ちまでも一緒に握り潰して捨ててしまっていた事に気付いた
から・・・ボクはまた、紙屑を小さく折り畳んで、ポケットの底へと戻した。
その時だった。ボクが、遥か遠くからの想いを感じたのは。


 聴こえる筈が無いくらいに遠くから伝わってくる声。音ではなく、心に感じ
られる想い。ボクに向けられた、とても強くて優しい想い。ボクは、いつしか
誘われるように足を速めていた。


褐色(かちいろ)の空の向こうには

星辰流れし旅路

宵の恋の静けき声に

夢も歩み 時に停まるけど

信じているから

絆を あなたの心のすべてを

また 跳ねる靴の軽き音を 聴きながら

いつまでも変わらぬ目を

微笑みつつ傍に眺めていたい 共に進む限り

ずっと・・・いつも・・・


「・・・・流香さん、だったのですね」

 街外れにある広場の一角。優しさに溢れる想いを不思議な旋律に託して詩う
流香さんの姿は、あたかも月に見入られているかのように明るく、そして輝い
ていた。
「歩ちゃんを見失った時にはどうしようかと思っちゃったけれど、歩ちゃんに
少しでも私達と居たい心が残っているのなら、きっと私の気持ちも歌を通して
伝えられると思ったの」
「その為に、ずっと此処で詩い続けていたというのですか・・・」
「歩ちゃんを無事に連れて帰るのは私の務めだもの。これくらいは、私の力で
何とかしないとね・・・そう、思ったから・・・」
「どうして、そんな無茶な事をしたんですか!? 少しでもボクの心が離れて
いたりしたら、流香さんは・・・」
「それでも、いつかは届くと思っていたよ」
 流香さんから感じられるのは、優季さんと同じような理屈抜きの感情だった。
きっと、自分の一切を擲ってでも相手の事を信じて動かずにはいられないんだ。
 どうして、そこまで信じられるの? ボクは、流香さんが心を痛めて伝えた
呼び掛けを前にしておきながら、一言も答えられずに逃げ出した。そんな弱い
人間に過ぎないのに・・・

 そう思った時、流香さんはまるで糸が切れたように外灯の下にくずれ込んだ。
「流香さん!?」
「ふふ・・・詩うのって、意外に疲れるみたいね。やっぱり、私だと歩ちゃん
みたいに上手くはいかないみたい」
 大急ぎで流香さんの身体を抱き起こすとすぐに分かった。流香さんは疲れた
身体を無理してまで慣れない力を使ったから、もうまともに歩けないくらいに
消耗していたんだ。
「情けないね・・・歩ちゃんを連れて帰るはずの私が、逆に倒れて歩ちゃんに
助けられるなんて・・・」
「いいんですよ。綿月さんに何かあったら優季さんが悲しみますから」
「私に気を遣わせないように、わざと昨日のように言ってくれる所も・・・」
「もぅ、余計な事は言わないで、素直に休んでて下さい!」
 でも、どうしよう。ボクは流香さんを連れて帰れる程のお金なんて持っては
いないし、誰かに来てもらうにせよ、流香さんをこんな所に置いてなんて行け
ない。
「歩ちゃん。そこのポーチの内側に私の携帯が入っているから、優季ちゃんに
連絡を取ったらいいよ・・・」
 流香さんの携帯には既に番号が打ち込まれていて、後はボタンを押すだけで
すんなりと通じた。

「はいは〜い♪ こっちはもうすぐ肉が無くなっちゃうけれど、この際、歩と
るかちゃんの分のうどんも一緒に入れちゃっていいかな?」
「ちょっと待ってよ! どうして、そこで紗織が出てくるの!? ボクは優季
さんの携帯に電話を掛けたんだよっ」
「それを言うなら、るかちゃんの携帯を歩が使ってるのだって変だよ。それに、
この携帯はお姉さんが優季ちゃんに貸していた物なんだから、紗織お姉さんが
持っていたって、それは当たり前の事だよ」
「それは、そうだけど・・・」
「それより、るかちゃんから『歩ちゃんがいなくなった』なんて言われてから
というもの、こっちではまた大騒ぎだよ。猫探しが終わったと思ったら今度は
朝までに歩を見つけ出すことになったんだから」
「ごめん・・・・」
「歩はうちで泊まっている事になっているから、今なら家に帰っても叱られる
事は無いよ。当然、この埋め合わせは後からじっくりとして貰うけどね」
「本当に、心配掛けちゃって・・・」
「とにかく走って帰ること! 1時間以内だったらタイムサービスで9割引に
しとくからね」
「実は、その事なんだけど・・・」

 ボクひとりでは、倒れている流香さんを乗せて家に帰れる訳が無い。結局、
帰りは紗織に面倒を見て貰った(それが原因でまたひと騒動起ったんだけれど、
今回だけは紗織の気持ちに免じて心の中にしまっておくね)


 沙夜さん達から一回り叱られた後で紗織の部屋に泊めてもらった夜、ボクは
ちょっと変わっていてるけれど、どこか懐かしい、そんな、とても楽しい夢を
見た。瑞々しく手入れされた美しい庭園の中、ボクはお兄ちゃんと二人で広い
花壇を巡っている。夢の中のボクは普段では考えられない位に豪華なドレスに
身を包んでいて、ちょっと得意になっていて・・・でも、いつもと違うボクの
姿を見られていると思うと、どこか気恥ずかしかったんだ。そして、「ボクの
事を本当に知っていて、それでも本当のボクを見てくれている人が、今ボクの
目の前にいる。こうしてまた会うことが出来る」――その事を感じられたこの
時間が、ボクにはただ嬉しかった。

自分の心を抑えるのは、あまりにも苦しすぎたから・・・
身を包んでいる綺麗なドレスも、ボクにはちょっと窮屈だったから―――

気付かないまま、二人で回した運命の歯車。
それは、ふたつの運命の、終わりと新たな始まりの記憶。


 カーテン越しの緩い朝陽が、ボクの心を現実に引き戻した。やってきたのは、
何度も繰り返してきたはずの日常。今日はいつもより早起きして、沙夜さんと
紗織と一緒に朝ごはんを食べて、学校に向かう前に鞄を取りに一度家に帰る。
でも、今日のボクには・・・自分の気持ちに気付いてしまったボクには、もう
まともにお兄ちゃんの顔を見る自信なんて無い。お兄ちゃんに会うのがこわい
んだ。昨日と違うボクを知られてしまうと思うと、もう、どうしたらいいの?
ボク、全然分からないよ。


 玄関を出て、歩き出す。すれ違う人に挨拶して、いつもと同じ道を歩いて、
また少し冷たくなった空気を感じる。
 でも、ボクはもう変わってしまったんだ。
「・・・・紗織」
「うわぁ☆ 朝の通学路でいきなり告白なんて、そんなことされたらお姉さん、
もぅ・・・!」
「ボク、今日は学校に行かない。このまま、中央通りに遊びに行くから」
「・・・・・・」
 珍しく、きょとんとした紗織を傍らに置いたまま、ボクは言葉を続ける。
「まずは、綾花さんのお店・・・だとサボってるのを見られちゃうか、じゃあ
恵菓堂の2階席でお茶でもして、それから、冬物を見て回って・・・そうだ、
このあいだ、とっても良いCDが出たんだよ。まだ買うことは出来ないけれど、
試聴ならできるんだ」
 とっさに口を衝いた言葉を並べ立てる。苦し逃れの言い訳だって事くらい、
本当は分かってるのに。
「紗織も、ボクと一緒に遊ぼうよ。みんな忘れて、ね」
「ふふ、歩のそういう言葉、実は待ってたんだ☆」
「ちょっと!? まさか、本当に紗織まで学校休む気なのっ!?」
「これくらい大丈夫だよ。こういう時くらいはみんな忘れて、歩も、たまには
そう言った自分を信じてみること☆」

 言葉どおり、紗織は即座に携帯を取り出して優季さんに指示を送り、学校の
友達とボクの家にも電話を回したかと思うと、ボクと紗織の欠席事由をあっと
いう間につくりあげてしまった。
「一度決めたら、あとは全力で最後まで行っちゃうよ。歩だって、お姉さんを
巻き込んだのなら思う存分に付き合ってもらうからね」
 ボクの右腕に自分の腕を回したと思うと、ボクの足がもつれるのも構わずに
駆け出していく。急いでそれに着いていきながら、そんな紗織の弾ける笑顔が
ボクにはちょっとまぶしかった。

 制服姿のままで恵菓堂に飛び込んでから40分。席取りをボクに任せて下の
カウンターに並んでいた紗織がいまさらのように戻ってきた。
「もぅ、遅いよぉ!どうして、そんなに時間がかかったの?」
「もうすぐ来るよ。『恵菓堂のデザートセット、左から右まで一通り』がね☆」
「えぇっ!!? そんなお金、ボク持ってないよぉ!」
「いいの、いいの。お姉さんのおごり。歩にはもっと栄養を取って貰わないと、
これからお姉さんの相手は務まらないからね」
 デザートセットを満載したワゴンが寄せられてくるのを満足そうに見ている
紗織を前に、今日はいろんな意味で普通じゃない日になるような気がした。
「ふふ、これから、もっと楽しくなるよ」

 でも、1時間以上頑張ったのに、紗織の頼んだデザートの山はまだ半分近く
残っている。当然、紗織にも責任を持って手伝ってもらっているけど、もしか
すると、今日は一日このお店に閉じ込められて終わるのかもしれない。事態は、
非常に危険な展開になろうとしていた。

「これって、やっぱり頼みすぎだよぉ。無理を言ったんだから、残していく訳
にもいかないし・・・・」
 今は、洋菓子と和菓子を交代に手をつけていく作戦。動きが止まりつつある
スプーンで柿羊羹を切り分けながら、紗織に幾度めかの抗議を口にする。
「歩だって、最初は美味しそうに食べていたじゃない」
「う・・・・」
「信じていれば、道はひらけてくるものだよ」
 そう言いながらプリンアラモードを片付けている紗織だって、さすがにもう
限界に近いはず。さっきから、やたらとボクから目をそらせてるしね。
「もぅ、どうなっても知らないから・・・・」

 半ばあきれ顔でティーカップを持ち上げようとしたその時。
「くす。歩ちゃん、み〜つけた☆」
「きゃあっ!!」
 取り落としたカップがガシャンと音を立てる。割れなかったのは、良かった
けど、学校で授業を受けているはずの優季さんが、どうして!?
「まったく、紗織さんを巻き込んで学校サボってるなんて、妹ながらいい身分
してるよな、お前は」
「いたたたっ! いたい・・・いたいよぉ、お兄ちゃんってばぁ!」
 握りこぶしで頭を小突いたかと思うと、指の間にボクの髪を挟んでそのまま
ひねり込んでいく。ただでさえ痛い上にリボンを結んでいる分だけグリップが
効いているから、これって、見た目よりもずっと痛いんだよ。
「優佳、もうこのくらいで勘弁してあげたら。きっと、歩ちゃんにも事情があ
ったんだから」
「まったく・・・今日のところは、これくらいで勘弁してやるか」
「どうして・・・・」
 涙目はもう少し置いておくとして、先にリボンを解き、からまってしまった
髪を整え直しながら、当然の疑問を口にする。
「1時間目が終わってすぐに、紗織お姉さんのお友達から伝言が来たんだよ。
しばらくの間は、ここにいるからってね。それで優佳に話したら、優佳ったら、
すぐに駆けだして行こおうとしちゃったんだよ。だから、私達も早退する事に
しちゃったの」
 紗織ってば、その時間を稼ぐ為にあれだけ大量の注文をしたんだね。それに
気付けなかったのはボクの失敗だけど。
「お兄ちゃん、無事だったんだ。昨日は楽しかったよね〜☆」
 結果的にお兄ちゃんを救急車送りにしておいて、全然悪びれていない紗織。
言っておくけど、この点に関しては、ボクは全然関係ないよ。
「ええ、体のあちこちの筋が傷んで猫に恐怖感を抱くようになったのは貴重な
収穫です。傷の方は、優季も朝早くから来て看病してくれましたけどね」
「そうかぁ・・・、仲がいいのは結構だけど、あんまり優季ちゃんを悲しませ
ちゃダメだよ」
 そうだよね。優季さんってお兄ちゃんの事が好きだから、これくらいの事は
きっと当たり前にやってしまうんだ。それなのに、ボクは・・・
「そうそう。たまにはお兄ちゃんもかわいい妹と一緒に登校してあげなさい♪」
「え・・・ええ!? 紗織ってば、いきなり何を言い出すの!?」
「本当に、そう思うんですか?」
「お姉さんは、いつも二人を見守っているから☆」

 合っているけれど、すれ違った会話。中心にいるお兄ちゃんだけがその事に
気付いていない。前にも、こんな事があったような気がする。穏やかに流れる
風の中、生まれたばかりのかすかな想いを、綿毛に包んで託した日。遠い遠い、
記憶よりも遠い日の思い出―――

『優佳も一緒に学院に通えたらいいのにね。そうしたらもっと楽しいのになぁ』
『・・・・・・そう思う?』
『うん!』

「歩も、そう思うでしょ?」
「・・・・え?」
 気がつくと、みんながボクに注目している。
「聞いてなかったの?いまの話」
 紗織が不満そうにふくれるけど、正直に答えるしかない。紗織が相手である
以上、ここで下手に知っているフリをしたら、後は紗織のペースでどんな展開
にでも持ち込まれてしまう。
「ごめん・・・」
「まあいいよ。それより、これからどうやって過ごそうかな・・・?」
 優季さんとお兄ちゃん(主に優季さん)の前で残りのケーキが消えてゆく中、
これからの予定を決めていく。結局は、また学校に戻るのも難しいから街中で
遊んじゃったんだけれどね。


「ふふ、こんな一日も斬新でいいよね。今度も、またやってみようね☆」
「そんな事されたって、次からは連れ戻しますよ。まったく、こいつって奴は
・・・」
「分かったから、ボクをこれ以上責めないでよぉ。もうしないって、約束まで
ちゃんとしたんだからぁ」
「そうそう。やっぱりいつもの生活が一番だよ」
「それじゃあ、お姉さんたちはもう帰るね。お兄ちゃんも今日ばかりは大目に
みてあげてね」
「それと、歩・・・」
 紗織が急に背を傾けて、ボクの首筋に顔を寄せる。
『これでもう、いつもの歩でいられるよね』
 気付いていたんだ・・・
「それじゃあ、また明日ね〜〜☆」
 耳打ちひとつだけを残して、紗織と優季さんの二人は嵐のように過ぎ去って
行った。

 時間が過ぎ去った後の帰り道、ボクとお兄ちゃんは二人きり、無言のままで
歩き続けていた。別に、なにがどうって訳でもなくて、何となく話し出しにく
かったんだ。
 先に切り出したのは、お兄ちゃんだった。
「それにしたって、なんでいきなり学校休むなんて言い出したんだ。本当なら、
過ぎるくらいに律儀な性格しているくせに・・・」
「それだけは秘密。世の中には、お兄ちゃんが知ってはいけない話だってある
んだよ。特に、女の子だけの世界の中にはね」
「でも、それじゃ納得いかないじゃないか・・・」
「お兄ちゃんには、一生分からないかもね〜」
 殆ど一人だけ気付いていないお兄ちゃんの様子があまりにもおかしくって、
思わず笑みがこぼれてしまう。
「それなら、そういう事にしておくか」
「えぇっ!? いつもだったら、ボクをいじめて2、3日くらいの間しつこく
訊き続けるはずなのに・・・!?」
「今日、初めて俺に笑いかけただろ。それに免じて、許してやるよ」
 お兄ちゃん、あれからも、ずっとボクの事を気にしてくれてたんだね・・・
「うん♪ いつの日か、話してもいい時が来たら、その時にはお兄ちゃんにも
話してあげるかもね」

 こうして、ボクは再び日々の生活に戻った。でも、ボクの心の中で、何かが
止めようもなく動き出してしまった事は、何よりもボク自身が理解していた。



―――運命の夜、二人だけの世界。決められた自分ではない、本当のボクの姿を
見てもらえる、最後の機会。薄明かりの庭園の中、ボクは自分の想いを告げる。


『どんなに好きになったって・・・・、結ばれる事は許されないから・・・・』


―――自分の手で打ち込んだはずの楔。ボクの心の、最後の歯止め。


『本当に好きになってしまう前に、キミのこと忘れなきゃ。そう思ったから』


―――でも、結局は抗えなかった。最後になってしまってから、ボクは自ら楔を
抜こうとしている。


『ずっと、そばにいて欲しかったの・・・』


―――噴き出していく想い。幾度も胸に穿たれていく、虚と激情の暗流。


『・・・ボクはどうすればいいの!?ボクのこの気持ちは、いったいどうしたら
いいの!?・・・答えてよ・・・。ねぇ・・・』


 目が覚めた後、ボクはもう一度ベッドに潜り込んだ。涙で濡れた布団の中、
ボクは胸の痛みを覆い隠すように、自分の身体をずっと抱きすくめていた。


 あの日から、一週間が過ぎた。錯綜する感覚と、自分ではない自分の記憶。
ここにボクがいる事さえ、現実という感じがしなくなってきているような感覚。
今日だって、折角の休みの日にこうして公園の噴水の前で物思いに耽っている
なんて、全然ボクらしくないと思う。
 いつもなら、誰かを誘って楽しい時間を過ごしたり、学校にいって思う存分
歌を歌って過ごているはずなのに・・・いまのボクは、自分で壁を作っている。
 わだかまった気分を振り払うようにかぶりを振る。水面に映った憂鬱な顔が、
水滴に叩かれるままに、いつまでもさざめいている。
「こんにちは、歩ちゃん」
 不意にボクの背中を叩く声――聞き慣れた優季さんの挨拶。振り返るまでも
なく、その表情や仕草までも読み取れる。その様子を思い浮かべながらボクが
振り返ると、想像していた通りの、いつもの優季さんがそこに佇んでいた。
「優季さんがここに来るなんて、珍しいですね」
「そうかもね。歩ちゃんも、私も」
 とりとめのない会話。でも、ボクは心が震えるのを感じていた。流香さんが
そうだったように、優季さんもボクの気持ちに気付いているのかもしれない。
思うだけで、僅かな不安がボクを支配していくのが分かる。
「・・・いいえ。ボク、そんなに様子がおかしかったですか」
「ううん、そんな事は無いよ。でも最近の歩ちゃん、ちょっと元気が無かった
から・・・」
 優季さんがちょっと困った顔で小首を傾げると、その動作を追うように赤い
リボンが揺れ動いた。思えば、ボクがリボンを付けたのも、優季さんに会って
からだった。きっと、お兄ちゃんといつも一緒にいる人に、少しでも近づきた
かったんだ。もっとも、ボクの髪は優季さんみたいに柔らかくはなかったから
髪型までは真似できなかったけれど、それ以来、ボクはこの黄色のリボンと、
ポニーテールで通している。
「ボクだって、そんな気分になる事はあります」
 そっけなく言って、噴水の方に向き直る。ボク、何やってるんだろう。優季
さんがせっかく声を掛けてくれているのに。
「実はね、この近くに好きな場所があるの。歩ちゃんにも特別に教えてあげる
から、付いてきて」
 優季さんは、そう言ったかと思うと、一人で先に歩き始めた。それに離され
ないように、ボクも急いで後を追いかけていく。そして、しばらく歩いたかと
思うと、殆ど誰も行ったりしない林側の遊歩道に進んでいって、いぶかしんで
いる間に、奥にある展望台から、更に枝道に進んでいく。そして、最後に行き
着いたのは、もう先に何の道もない、最も奥まった場所だった。
「最近になって見つけたの。静かでとっても気持ちのいい、歩ちゃんが最高の
歌を歌えそうな場所」
 人気が無くて、緑の匂いに満ちている場所。湿気は少し多いけれど、適度に
風が吹き抜けているからあまり気にならないし、思いっきり歌っても、誰にも
聞きとがめられる事はない。ちょっと遠くて行きにくいけれど、かなり理想に
近い場所だった。
「歩ちゃん、あの時からずっと歌っていなかったから。だから、ちょうどいい
場所を探していたの」
 優季さんの言う通り、あの日からボクは一度も詩を歌ってはいなかった。
 流香さんが教えてくれたように、ボクの歌には、全てのものにボクの思いを
伝えてしまう力がある。怖いんだ。歌声を聴かれる事で、ボクの本当の想いを
知られてしまうと思ったら、歌いたくても歌えなかったんだ。
「ここなら、私と歩ちゃんしかいないから。歩ちゃんの大切な想いを、私にも
聴かせてくれるかな? 私は気付いていたけれど、いまのうちに、歩ちゃんの
口から聴いておきたいの」
「優季さんにだけは知られたくなかったのに、どうして・・・」
「だって、私も優佳のこと好きだもの。こういうのって、知ろうとしていなく
たって、いつのまにか気付いてしまうものなの」
「・・・・・・それでも、優季さんにだけは、知られたくありませんでした。
ボクをどう思っても、どうかお兄ちゃんにだけは絶対に・・・」
「安心していいよ。そんな事はしないから」
 椅子代わりの柵に座って、優季さんはボクの歌を待ち望んでいる。それは、
遠い日の追憶に似ていると思った。


―――いつもの場所。ボクはそっと腰掛けて、緑の風に五感を委ねている。
風の声が、そっとあの人の訪れを告げてくれるけれど、ボクはわざと気付か
ないフリをして、何気ないように挨拶をする。そんな、微妙な二人の呼吸が
ボクにはとても楽しかった。

『今日はまだ歌ってないの?』
『うん、なんだか風が気持ちよくって』
『ふうん・・・・・・』

 風の奏でるメロディーだけが、一瞬、ボクと優佳だけの世界を包む。

『ね?』
『本当だ・・・・・・』

 でも、気紛れな風は気がつけばもう止まってしまう。でも、だからこそ風
なんだ。風の余韻を心に残しながら、ボクはそっと言葉をつないだ。

『さてと、そろそろ歌おうかな。聴いてくれる?』
『ああ、喜んで』
『それじゃあ・・・・・・』

 そして、ボクは身体を伸ばす。少し前に一度温めておいた喉から、身体の
隅々まで、静かに、深く息を吸い込む。

 初めて永遠を願った瞬間。この時を、いつまでも止めてしまって、全てを
忘れてしまっていたい。心から、そう思った。叶わない望みだということは、
嫌というほど知っているはずなのに。

 
 それでも、ボクは歌を紡ぐ。最高の詩を、ボクの本当の望みを込めた歌を。
 あの人はボクを見つめながら、ボクの歌をずっと聴いてくれていた―――


「優季さん・・・、聴いてください。ボクが抱いた、大切な思いを」



 抱いてはいけなかったボクの想い。


 好きになってしまった気持ちの大きさ。


 大切な人のそばにいられる幸せと、傷つけてしまう苦しさ。


 近くても遠い距離。


 ずっと一緒にいた日々の中の、たくさんの思い出。


 押し込めていた、数々の思い。


 心が、満たされていく。歌に想いを重ねるほど、ボクの空白が埋まっていく。
静かに目を閉じたまま、優季さんは聴き続ける。夢中になって歌っている内に
いつしか日は沈もうとしていた。

「とても・・・素敵だったよ、歩ちゃんの大切な想い」
 一面が朱色の夕陽に染まった世界で、優季さんは満足そうに微笑んでいた。
全てをありのままに受け止められる人にしか出来ない、心からの笑顔で。
「・・・ごめんなさい。ボクはずっと前から優季さんの想いを知っていたはず
なのに・・・」
「前にも言ったよね。恋に理屈は必要ないって。歩ちゃんは、歩ちゃんらしく
自分の気持ちを育てているんだから、私も、歩ちゃんにはそんな想いを大切に
して欲しいの」
 優季さんの言葉が、まるで魔法が解けたようにボクの心に染みこんでいく。
今になって、やっと分かった。流香さんが、ボクに何を言いたかったのかも。
「歩ちゃんには大切なものを見せてもらったから、今度は、私の大切なものを
歩ちゃんに見せてあげる・・・」
 そういうと、優季さんは襟首に手を回して小刻みに手を動かす。ボクの前に
差し出された優季さんの手には、小さなペンダントが握られていた。装飾性は
殆ど無く、ただ、鎖の先に小さな石が付けられただけのもの。
「このペンダントについている石・・・・。この石はね、私が生まれたときに、
手に握りしめていたものなんだって」
「・・・・そう言ったら、歩ちゃんは信じてくれる?」
 ボクは、もう一度その石を見つめ直す―――優季さんと同じ、見る人の心を
自然に明るくしてくれるような、穏やかで、まっすぐな輝きで光り続ける石。
「不思議な話ですね・・・でも、優季さんが信じるなら、ボクだって信じます。
そのペンダント、大切にして下さい」
「くす。やっぱり、そう言ってくれるんだね」
 優季さんの笑みの理由がいまひとつ分からないボクを前に、優季さんはまた
ペンダントを見詰め直した。
「優佳も、歩ちゃんと同じような事を言ってくれたんだ。血で結ばれた絆って、
やっぱり、すごく強いんだね」
 でも、その絆こそが、ボクとお兄ちゃんを隔てている。近すぎるからこそ、
越えられない壁。この思いは、優季さんには決して分からない。
「分かるよ。私には・・・・血で結ばれるというのが、どういう事なのか――
どんなに強い想いを抱いたって、それ以上に自分の心を縛らなければいけない
という痛みが、どれほどに大きいものなのか」
「どうして、優季さんに、ボクの・・・!!」
 こぼれかけた言葉を、あせって喉に飲み込む。知られたくない。優季さんを、
これ以上に苦しめたくない!
 しかし、優季さんはボクの言葉を聞きとがめたりはせず、静かに話を続けて
いく。まるで、自分自身にも言い聞かせているように。
「でも、優佳を此処に繋ぎとめることは、歩ちゃんにしか出来ないことなの。
この世界で最も強く優佳と繋がりを持っているのは、私ではなく、歩ちゃんの
方に違いないから・・・」
 不意に、ボクの心臓を抉り込んでいく悲痛の感触。これまでに何度もボクの
身体と心を陥れてきた不安の精髄―――お兄ちゃんが、ボクを置いて遠い所に
行ってしまう!!!
 優季さんが何を言おうとしているのか、ボクにはほとんど理解できなかった
けれど、それが極めて重大な意味を持っている事だけは直感で分かる。ボクは
生まれて初めて絞り出す程に乾いた声で、優季さんにすがりついていた。
「お兄ちゃんを、引き止めるって・・・・・・どうしたら・・・・」
「私達を取り巻いている運命を、どうしても止めるの。優佳をこの世界の中に
繋ぎとめるのよ。でも、それが結果として何を引き起こすのか、それは私にも
分からない。もしかすると、私達の関係は全く別のものに変わってしまうかも
しれないし、それ以上の事が起こってしまうのかもしれない。でも、いつかは
やらなくてはいけない事なの」
 いつも通りの、静かな声でボクに告げる優季さんの姿はきれいだったけれど、
ボクはその姿が夕陽の中に溶けていくような、そんな儚さまでもはらんでいる
ように見えて、ボクは思わず優季さんの指に触れてしまっていた。







「だいじょうぶ。これはきっと正しい事なんだから。歩ちゃんが抱いた想いも、
きっと、必然だったんだよ」
 自分の信じている道を、まっすぐに歩く。それが実際に出来る優季さんは、
ボクなんかよりもずっと先の場所を歩んでいるように見えた。


 その日の夜、ボクは久しぶりにお兄ちゃんと二人きりで週末を過ごしていた。
別に、何か特別なことをしていた訳じゃない。その日にあった事を適当にかい
つまんで話して、テレビのチャンネルを取り合って、見たいものがなくなった
時には雑誌の記事を二人で見て、あれこれと言いたい事をいう。兄妹がいる家
なら、あたりまえにある日常。でも、ボクの頭の片隅には、さっきからずっと
別の事が引っ掛かっていた。
 優季さんと、流香さんの言葉を胸の中で繰り返してみる。答えの見えない、
それでも、解かなければいけない問題。

 商店街のグルメマップを全店制覇した心地よい疲れの後、ボクは切り出して
みる事にした。
「お兄ちゃん・・・」
「どうした?ケーキをおごる話なら、当分お断りだぞ」
 そうじゃないよ、もぅ。いくらなんでも、お兄ちゃんに一年中たかっていた
記憶までは持ってないんだからねっ。
「お兄ちゃんは、どこか別の世界に行ってみたいって思ったことはある?」
「・・・・分からないな」
「そう・・・・」
「ずっとこの街で過ごしていくのも悪くないとは思うけれど。俺の知らない、
でも俺の事を待っていて、受け入れてくれる世界が何処かにあるなら、一度は
行ってみたいような気がする」
 でも、その遠い場所の中で、ボク以上にお兄ちゃんを想っている人が現れる
のは嫌だよ。そうなったら、お兄ちゃんは帰ってこなくなるのかもしれない。
「そこには、俺の知らなかった物があって、俺の知らなかった人がいると思う。
全てが新しい生活の中で、自分の中の世界が広がっていって――新しい何かを
見つけ出せると思うんだ」
「お兄ちゃんは、それが楽しみなんだ・・・・」
「でも、そこにずっと留まるかは分からないな。俺にとっては、自分の一番に
大切な、そんな『宝物』がある所を、結局は自分の居場所にするだろうから」


 その言葉を聞いた時、ボクの中にある『何か』が弾け飛ぶのを―――感じた。


 足が自然に動いていく。何かを求めるかのように、両腕が前に出ていって、
お兄ちゃんの胸元を掴む―――触れられる。ボクは優佳のすぐ近くにいられる
んだ。そして、その事を今も身体で感じている。それなのに、ボクは・・・・

「『ずっと、離れないでね・・・・』」
「どうしたんだよ、急に」
「・・・・ぅ・・・・・・・」
「もしかして・・・・泣いているのか・・・?」
「うぅん・・・な、なんでもない・・・・ょ・・・」
 どうして・・・どうして、身体の震えが止まらないの。お兄ちゃんがボクの
目の前にいるのに。ボクの前にいてくれて、こうして手に触れられているのに。
身体で、温もりで、お兄ちゃんの事を感じ続けていられるのに!
「歩・・・」
「絶対・・・絶対、ボクの前から離れないで。ずっと、ボクの側にいて―――」
 溢れていく。こぼれていく。どこまでも大きく、どこまでも強くなっていく。
胸に抱いてしまった想いを、もう自分でも止められない。
「ボクを一人ぼっちにしちゃ、やだよっ!!!!!」
「お、おい!? お前、いったい何を・・・」
 もう、これ以上は言葉にならなかった。あの時のボクは、ただお兄ちゃんの
胸の中で泣き叫ぶだけの子供と変わらなかった。それでも、お兄ちゃんは何も
訊かずにボクを撫で続け、ボクの気が済むまでずっと身体を預けていてくれた。
その時、ボクは決めたんだ。優季さんの、そして流香さんの言葉だからでなく、
ボク自身の意思として。


『約束を、守ってもらうんだ』って―――


 この先に何が起こっても、お兄ちゃんはボクがここに繋ぎ止める。どこにも、
行かせたりはしない。


―――それこそが、ボクが此処に存在する理由なのだから。


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