インターミッション「沙夜と優季の役に立たない化学講座」



第1話「こんなものでも許される? 元素の命名あれやこれ」



「みなさん、こんにちは。本編では意外に出番の少ない優季です☆」

「当然よ。あなた、名前が無いんだから・・・と言ってたんだけれどね。

貝阿弥さん、メールの中であなたの名前に触れてくれたの」

「うう・・・せっかく今まで忘れていたのに・・・って、そうなの!?」

「私が言うのだから本当よ。どうやら、フルネームは砂倉優季(さくら 

ゆうき)らしいわ」

「ぐすっ・・・。あの人、私の事を忘れないでいてくれたんだ・・・」

「感動している所に悪いけど、このコーナーでも優季は脇役よ。主役は私

だからね」

「えっ!? この企画、私の出番を補う為じゃなかったの・・・?」

「タイトルをよく見なさい。最初は私の名前でしょ。優季は2番目」

『が〜ん・・・』

「こういうのも酷だけど、あなたは何処へ行こうと名列順で最下位になる

運命なのよ」

「いいもん、いいもん・・・どうせ私は・・・」

「いじけてないで始めなさい。説明役が貰えただけでも天に感謝する事ね」

「それじゃ、始めるよ☆ 最初に断っておくけれど、元素の命名には見つ

かった場所、色、通称など、いろいろな由来があって、全部やるときりが

ないくらいなの。だから、ここでは特に、天体や神、人の名称といった変

わり種を中心に紹介するね」

「意外に立ち直りが早いじゃない。割と数が多いから、その調子でね」

「まず、第二章で出てきた元素の答え合わせ。確か、最初に出てきたのは、

地底の冥界に閉じ込められた巨人の名を持った元素だけど・・・沙夜さん、

これ分かります?」

「ここまで言ったら、大抵の人は思い付くわよ。巨人というのはギリシャ

神話に出てきたタイタン。だとしたら、もうチタン以外にありえないわ」

「正解です☆原子番号22番。元素記号はTiです。彼は天空の神と大地

の神ガイアを父母とする巨神族の一員。鉱石中に閉じ込められて、さぞか

し窮屈な思いをしている事でしょう」

「最初からそう言えばいいじゃない。文系の人が混乱しちゃうでしょ」

「でも、これはほんの序の口。次の、大地の女神は分かりますか?」

「こんなの分かるわけないでしょ!思いついても、元素の方を知らないん

だから」

「では、元ネタだけ当てて下さいね☆ヒントはローマ神話です」

「ひょっとして、テルース(tellus)のこと?」

「はい。実は、その名前はラテン語で地球を意味していて、それが52番

元素、テルル(Te)の英語名であるTelluriumの由来になっています」

「月の名っていうのも、ラテン語なの?」

「残念ながら違います。34番元素、セレン(Se)の英語名Seleniumは

月を表すギリシャ語seleneに由来しています。テルルに似ていたことから、

これに対抗して名付けられました」

「かなり低次元な争いね・・・」

「あの・・・それは言わない約束です」

「事実を認めないような人間に科学をやる資格はないわ」

「・・・・・・。これ、理系の人が読まない事を祈ってるね・・・」

「最後は天空の神ね。これはウラノスでしょ。ということは、ウランね」

「この人(?)は有名ですからね。ちなみに、一連の命名の中では天体

名として使用されています。下に天体由来の元素を並べておきますね」



ヘリウム(原子番号2、元素記号He):太陽

セレン(原子番号34、元素記号Se):月

テルル(原子番号52、元素記号Te):地球

セリウム(原子番号58、元素記号Ce):小惑星セレス

パラジウム(原子番号46、元素記号Pd):小惑星パラス

ウラン(原子番号92、元素記号U):天王星

ネプツニウム(原子番号93、元素記号Np):海王星

プルトニウム(原子番号94、元素記号Pu):冥王星



「小惑星って辺りにスケールの小ささを感じるけど、一体何を考えてる

の?」

「これらの元素は1801〜2年に発見されたの。その頃は小惑星が初

めて発見されて、話題になっていたのよ」

「歴史を感じるエピソードね」

「ちなみに、小惑星一号であるセレスはローマ神話の女神ケレスにちな

んで名付けられたの。パラスはアテネの守護女神、パラス・アテネ―の

異名よ」

「ところで、冥王星の次は一体何処へ行くのよ? この付け方、問題大

ありなんじゃないの?」

「ウランが発見された当時は、その8年前に発見された天王星が太陽系

で最も外側の惑星だと見なされていました。しかし、ごく微量の元素が

その後に見つかってしまったのです。幸いにも、その時には、天王星の

外側に更に2つの外惑星が見つかっていたので、それらの名を付けるこ

とができました」

「まさに行き当たりばったりね。でも、これで終わってくれる程、世界

は甘くないでしょ?」

「天然の安定元素は、これで打ち止めだったわ。しかし、科学技術の発

展は、更に大きい元素を人工的に作り出したの。これから先は、そうい

うものが続くことになるわ」

「夢が無くなってきたわね。それに、命名も苦しいでしょ」

「最初に存在を証明した人達が、殆ど好き勝手に付けてます(ため息)」

「例えば?」

「半分近くが近代物理学の有名人の名前を取ってるの。その誰もがノー

ベル賞クラスのすごい人達で、周期表の下段に並んでいる様は、まさに

博覧会状態。でも、本人の許可を取っているかは知らないわ」

「取るも何も、既に亡くなってるような人も多いからね・・・」

「一応下に並べてみるけれど、理系の学生さんしか分からないような人

ばかりだから、知らなくても気にしないでね☆」



キュリウム(原子番号96、元素記号Cm):

  放射能研究の功労者、マリー・キュリー

アインスタイニウム(原子番号99、元素記号Es):

  物理学者、アルバート・アインシュタイン

フェルミウム(原子番号100、元素記号Fm):

  イタリア出身の原子核物理学者、エンリコ・フェルミ

メンデレビウム(原子番号101、元素記号Md):

  周期表の創始者、ドミトリー・メンデレーエフ

ノーベリウム(原子番号102、元素記号No):

  元素が発見されたノーベル物理学研究所の創始者、アルフレッド

  ・ノーベル

ローレンシウム(原子番号103、元素記号Lr):

  サイクロトロンを発明したアメリカの物理学者、アーネスト・ロ

  ーレンス

ラザフォルジウム(原子番号104、元素記号Rf):

  イギリスの物理学者、エルンスト・ラザフォード

シーボーギウム(原子番号106、元素記号Sg):

  元素発見の巨人、グレン・シーボーグ

ボーリウム(原子番号107、元素記号Bh):

  デンマークの物理学者、ニールス・ボーア

マイトネリウム(原子番号109、元素記号Mt):

  ウィーン生まれの女性物理学者、リーゼ・マイトナー



「それで、残りは?」

「単なるお国自慢よ。自分の大学や国の名前を付けてるの」

「時代が進んだのに、より低次元になってるわね・・・」

「この辺は、もう面倒くさいから省略するね」

「発見者が聞いたら、きっと怒るわよ・・・」

「ぎく・・・」

「そうそう、最初にやってた神の名前シリーズは、あれで全部なの?」

「他にもまだあるよ☆ 残りはそれで締めようね」

「頼むわよ。私が訊かなかったら、これで終わってたんだから」

「73番元素タンタル(Ta)はタンタロスに由来しています。発見

への困難さから名づけられました」

「確か、ゼウスの怒りに触れて地獄の湖中に繋がれ、『のどが乾いて

水を飲もうとしたら水が退き、頭上の果物を取ろうとしたら、これも

また遠ざかる』っていう陰険な罰を科されたのよね」

「ちなみに、その娘であるニオベも、41番元素ニオブ(Nb)とな

って、お父さんの丁度上にたたずんでいます」

「どういう関係があるのよ?」

「ニオブについては複雑な経緯があります。この元素は1801年に

発見され、発見された石にちなんでコロンビウムと名付けられたので

すが、翌年に発見されたタンタルと性質がよく似ていた為に、同一の

元素と見なされてしまったのです。64年後、いくつかの紆余曲折を

えて、この石が新元素を含むことが確認され、タンタロスの娘にちな

んで名付けれられました。コロンビウムと同一物であることも分かっ

ていて、アメリカやイギリスではこの名で呼ばれていましたが、19

49年に呼称が統一されています」

「はい、次」

「61番元素プロメチウム(Pm)は、火の神プロメテウスから名づ

けられました。その根拠は私もよく知りません」

「本当、使えない子ね・・・」

「だって、調べてみても曖昧で難しい事しか書いてなかったんだもの。

『新たな元素の生成に関して』とか『核エネルギーへの先見的な危惧』

とかいう言葉が延々と並んでいて、明快な説明が無いの。取り敢えず、

こんな感じでいいかな?」

「さっきから、何処かいい加減になってない?」

「沙夜さんだって、コメントが減ってるよ」

「だって、飽きてきたんだもの」

「もう少しだから、ね・・・」

「こうして聞いてると、ギリシャ・ローマ神話ばかりね。他には無い

の?」

「数は少ないけれど、北欧神話もあるよ。23番元素バナジウム(V)

は美の女神バナジスから、90番元素トリウム(Th)は雷神トール

がその由来になってます」

「ふ〜ん。でも、どうして?」

「それについては不明です。母国の信仰の中心であった為に採用した

のだと言われていますが、これも本人に聞いた訳ではありません」

「他には?」

「これで全部です☆」

「・・・・・・本当に、何の役にも立たないコーナーだったわ。ここ

の知識に比べたら、ねこまんまの作り方さえ1億倍は役に立ってるわ

ね」

「うっ・・・うっ・・・」

「泣いても同情はもらえないわよ」

「はみゅぅぅぅぅぅ・・・」

「変な声で泣くのね。何処で覚えたのよ?」

「あ、あれ?私、どうして・・・・今のは、どうか忘れて下さいね☆」

「何故かしら・・・今の優季を見ていると、無性に叩きたくなってきた

わ・・・」

「ちょっと、沙夜さん!? 目が本気だよ!?」

「私はいつだって本気よ」

「あっ、流香と約束があるのを忘れてました!沙夜さん、後は好きに

して下さいね!」

「逃げようとしたって、そうは行かないわよ!」

「みなさん、ご清聴ありがとうございました!次もまた会いましょう

ね!」





参考図書



ブルーバックス B−1192

「元素111の新知識 引いて重宝、読んでおもしろい」(講談社)

編者 桜井 弘(さくらい ひろむ)

1997年 第1刷発行






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